2023年9-11月頃アイルランドに移住したので、移住にあたってやったことのメモを残しておく。
先に前提条件の共有。
- iOSアプリ開発エンジニア
- 日本の大学の文系学部卒3年目
- 労働許可の種類はCritical Skills Employment Permit
- 25歳、既婚、子無し
- 就職先はDublinのスタートアップ
- イギリスのBristolからの移住
- 計画性無し
Work Permitについて
私は今回iOSエンジニアとしてダブリンの会社にオファーをもらったのでCritical Skills Employment Permitを取得することになった。
Critical Skills Employment Permitについて詳細は公式のホームページを確認してほしい。
Critical Skills Employment Permits
一部自分にとって重要だった部分を抜粋すると
Eligibility for a Critical Skills Employment Permit is largely determined by the type of occupation, and proposed remuneration level. The following are eligible:
- Occupations with a minimum annual remuneration of €32,000 for a restricted number of strategically important occupations contained in the Critical Skills Occupations List a relevant degree qualification or higher is required.
- All occupations with a minimum annual remuneration of over €64,000, other than those on the Ineligible List of Occupations for Employment Permits or which are contrary to the public interest. A non-EEA national who does not have a degree qualification or higher, must have the necessary level of experience.
これはCritical Skills Employment Permitの条件について説明するものだがざっくりとまとめると
- Critical Skills Occupations Listに掲載されている職業で€32,000以上の給与オファーを持っていて、オファー内容に関係する学位を持っていること
- Critical Skills Occupations Listに掲載されていない職業で€64,000以上の給与オファーを持っているが関係する学位を持っていない場合は必要な経験を持っていること
Critical Skills Occupations List
私は関係する学位は持っていないがCritical Skills Occupations Listに掲載されている職業だったので、この2つの条件が微妙に当てはまるようで当てはまらないような感じですごく難しかった。
そして今回もらった給与オファーは€64,000以上だが、経験年数も新卒3年目のタイミングだったので自信を持って十分な経験があるとも言えない状況だった。
- Critical Skills Occupations Listに掲載されている職業では学位が必須なのか?
- €64,000以上の給与オファーがあれば業務経験を学位の代わりにできるのか?
- 経験を学位の代わりにできるとして、新卒3年目の経験年数で十分なのか?
結果としてまず1度目の申請で棄却されてしまった。届いたメールから一部を抜粋すると
Having considered all of the information provided with this application, I wish to inform you that the granting of a permit in this case is being refused under the Employment Permits Act, 2006 as amended. Reasons for refusal in this case are:
- It appears from the information provided that the foreign national does not possess a third level degree relevant to the employment concerned which is a requirement for this employment permit type under regulation 20 of the Employment Permits Regulations 2017 (S.I. No. 95 of 2017). In line with section 12(3) of the Employment Permits Act 2006 (as amended) an employment permit cannot be issued.
やはり学位が必要だったのかとかなり落胆をしたが、頑張って就活して得た仕事のオファーをここで諦めるわけにはいかず、オファーをいただいた会社のHead of HRの人と詳しく話をすると、私の経験を十分にアピールできていないのではないかということになった。
28日以内であれば、この決定について異議を申し立てることが可能なので、やってみることになった。
このフォームを埋めて再レビュー依頼を出す必要がある。
私はやれることはなんでもやろうということで、前職のCTOにお願いして推薦状のようなものをつくっていただいたり、これまでの会社でやってきた業務内容や、学生時代から個人開発でつくってきたアプリの情報をPDFにまとめた。
また、会社のほうでもなぜコイツを雇いたいのかということを詳細に書き添えてくれた。
私の学位はフランス語専攻だったが、言語学の文脈で取っていた「MeCabで形態素解析をしてみよう!😀」みたいなクラスを精一杯関係のある授業っぽくアピールしたりもした。効果は不明。
結果としてこの再レビューによって労働許可が下り、晴れて本格的な移住準備に進めることになった。
最初棄却されたときは本当にどうなるかと思った。数ヶ月の苦しい就活がこんな形で終わるのかとお先真っ暗な感じだった。諦めずにがんばってもう一踏ん張りして良かったと思う。
棄却の時点で見放したりせず、一緒に異議申し立てをしてくれた会社や、再申請にいろいろ協力していただいた人たちには感謝しかない。
まとめると、関係する学位がなくてもアピールできる経験や実績があり、€64,000以上の給与オファーがあればCritical Skills Employment Permitは下りるということだ。
Redditにも似たような質問はいくつか見つけられる。
多分もっと大きな会社なら人事が移民にも慣れていたり、移住エージェントみたいなのを会社が雇ってくれたりするんだろうけど、私の場合はスタートアップだったので仕方がない。
Critical skills permit without relevant degree? | Reddit
Dublinの住宅事情について
Dublinへの移住を考えている人ならすでにご存知だと思うがDublinの住宅事情は非常に厳しい。
特に賃貸はものすごく数が少なく、インフレが激しい。
Daft.ieで探すのが一般的だと思うが、Dublinだと1 bedroomで€2000くらいする。
この価格でも掲載してすぐに予約が殺到する争奪戦になっているので本当に厳しい状況だと思う。
私はイギリスにいるときにDaft.ieで出てきた物件ほぼすべてに、何十件もメールで問い合わせをしてみたが、1つしか内見許可は出なかった。この内見許可も急なものだったので、結局イギリスから飛んで見にいくわけにもいかず、辞退することになった。
ネットを見ていると、問い合わせ時にアイルランドではなくイギリスの電話番号を使っていたのが敗因だった説もあるので、これから探す人はまずアイルランドの電話番号を入手しておくことをおすすめする。
そんな状況の中でどうやって住まいを見つけたかと言うと、Facebookのコミュニティで自分の予算などの条件を記載して投稿したところ、今の大家さんが連絡をしてきてくれた。
これは本当に奇跡的なことだったし、話を聞いてみると彼自身もDublinの会社で働く海外から移住してきたエンジニアで、私のLinkedInなどを見て信頼できると思って連絡をくれたそうだ。
大家の側からしても賃貸情報サイトなどに掲載すると数千単位で問い合わせが来てしまったりするため、自分で信頼のできる人間を見つけた方が、入居後のコミュニケーションなどを含めいろいろと楽だと言う話をしていた。
予算は若干オーバーしたけど、親切な大家さんと巡り会えてよかったと思っている。何より何ヶ月もAirbnbやホテルに滞在して、結局家を見つけられずに自分の国に帰る人なんかもいるような状況で、こんなにもあっさりと見つけられてしまったのは、奇跡としか言えない。
会社の人にも家を見つけられたことに驚かれる。まずそんな状況のところに移住して来いと言うなと思ったが。
利用したFacebookコミュニティ Rent in Dublin | Facebook
Dublin賃貸市場の怖い話ばかり書いておくのもあれなので、一応良いことも書いておくと、2022年度は1人€500、2023年度は1人€750の賃貸を借りている人への所得税減税がある。
私の場合はパートナーと2人で、Joint Assessmentをしているので今年は€1000、来年は€1500控除される。毎月賃貸の支払いにはヒーヒー言っているが、このような仕組みがあるだけありがたい。
Dublinの生活費について
Dublin生活のコスト感について、私が直近住んだ横浜とBristolの基準から肌感をお伝えすると
日本(横浜)と比べて...
家賃が横浜の比にならないくらい高いのに加えて、物価も東京より高い。日本の物価が安いのと、円安ユーロ高の状況を考えるとそれはそうである。
1ユーロ100円くらいの感覚でいれるのであればあまり違和感なく生活できるかもしれないが、今は日本円の貯金や収入で生活する人にとっては非常に厳しい環境だと思う。
イギリス(Bristol)と比べて... 家賃はBristolの1.3-1.7倍くらいの肌感。スーパーなどで買う日用品や食材も同じか1.3-1.5倍くらいに感じる。 多分ロンドンと同じかちょっと安いくらいなのではないだろうか。比較サイトなどを見ていると、ロンドン以外のほとんどのイギリスの都市や、スペインやフランス、ドイツなどヨーロッパの各主要都市よりも圧倒的に高いように見える。
また注意するべき点として、イギリスやドイツと違いアイルランド版AmazonがないのでイギリスやドイツのAmazonから購入することになる。
基本的には送料などは変わらずに使えるが、€200を超える価値のものは関税がかかったり、Irelandでは買えない商品もあったりするので普段からネットショッピングをたくさんする人は注意が必要だ。
Cost of Livingの肌感を得る手段としてnumero.comは見てみると面白いと思う。
Cost of Living Comparison Between Tokyo and Dublin
移住本番
BristolからDublinへは格安航空会社Ryanairで2往復して移住した。
2往復というと大変なように思えるが、片道1時間もかからないフライトなので一瞬である。
持っていた自転車は追加料金€60で運んでもらえた。
引越しの荷物はUPSでBristolから発送した。2-30kg x 10箱で料金は£400くらい。
食材とか何も考えずにぶち込んでいたので、入国時に相当引っかかり全然届かず、数週間経っていざ届いてみると、動物性のものは軒並み穴が開けられて中身が捨てられていた。
例えばブタメンとか。もったいなぶってとっておくんじゃなくて、イギリスで食べてしまえばよかったと後悔。
もうちょっといろいろ考えて発送すればよかったと思う。
入国については日本のパスポートを持っていれば事前に入国ビザを取得する必要はなく、入国審査のところで「働きに来ました」と言って、Work Permitと婚姻証明を提示したらパスポートにスタンプを押してくれた。
その他もろもろやったこと
さて労働許可が下り、奇跡的に住居も移住前に決まったが、実際に入国してからもやることは結構ある。
銀行口座の開設
アイルランドではRevolutが銀行ライセンスを取得しており、給与支払い口座としてもちゃんと使える。イギリスではRevolutはまだ銀行ライセンスを持っていなかったため、Monzoを使っていた。
ユーザーとしての体験はMonzoと比べて遜色のない非常に使いやすいアプリで満足している。
一応AIB(Allied Irish Bank)もすぐ作れそうだったので口座を作ったがアプリが使いづらかったりで予備として持っているくらいであまり使っていない。
Personal Finance周りでひとつイギリスと比べて残念なのが、ISA(NISA)のような仕組みがないことである。アイルランドは個人が株式投資をする環境としては非常に悪い。議員が大家業をやっている人が多いので住宅市場以外に投資を促進するようなことをしたがらないみたいな若者の主張をよくみるが、本当なのかな。
本当なら許せん。
またMonzoやイギリス版のRevolutではすぐ引き出せるSavings Account(PotとかVaultと名付けられている)があって、年率4%とかで非常にいいなと思っていたけど、Ireland版のRevolutにはVault機能はなく、別でそういう選択肢もまだ見つけられていない。
MonzoのInstant Access Savings Potなんかは、現地で家を買うつもりもないし、積極的に株に投資してリスクを犯したくもないような短期滞在者の身としては非常に嬉しい仕組みだったけど、それがないのは少しイギリスが恋しく思う点である。
ただこれはイギリスが良かったのであって、日本から直接移住していればあまり残念に思わなかっただろう。
sim・Wi-Fi契約
スマホのSIMは48.ieとGoMoの2つを試してそれぞれ私とパートナーが使っている。
どちらも格安で、無制限で使えるので特に不満はない。
ちなみに48.ieはあのThreeの傘下で、48という名前は18歳から22歳までの48ヶ月を支えたいという意味らしい。要するに若者向けで日本でいうpovoとかahamoみたいなものである。
Wi-Fiは住んだアパートメントの都合上Virgin Mediaを契約することになった。
スピードは申し分ないがたまに不安定になったりする。イギリスでもVirgin Mediaを契約していて、あまり良い体験をしていなかったので別の会社にしたかったが、選択肢がなかったので仕方ない。
SIMもWi-Fiも契約にはIBANのある銀行口座のダイレクトデビットが必要なのでまず銀行口座をつくる必要がある。
リモートで働くならWi-Fi契約は必須だと思うのでまず急いで銀行口座の開設をするべきだ。
PPSNの取得
PPSNとはPersonal Public Service Numberのことで、会社にも提出することになる。
これは自動車免許の取得とかにも必要なもので移住後まず申請する人が多いのではないか。Taxの計算もこれに紐づいて行われるので、PPSNを会社に提出するまではEmergency Taxとして60%も取られてしまうので早めにやるべきである。ちゃんと登録すればあとでRefundされる。
このオンライン申請に必要なのは私自身のものについては、Work Permit、Passport、住所証明(賃貸契約書)が必要だった。
オンラインで申請したのち、1週間くらい経ったところでダブリンの中心地にあるPPSNセンターでのAppointmentの日程が送られてきて、現地に行ってもろもろオンラインで提出した書類を再度見せて顔写真を撮ったりした。
これによってPPSNカードをゲットすることができた。ただの顔写真付きの保険証みたいなもので、生年月日など記載されておらず、銀行開設の身分証明にはならなかった。
パートナーはCritical Skills Employment Permitの対象者である私のDependentなので、少し違う。
PPSNの申請時には必要な理由を証明する必要があり、私の場合は労働・納税に必要だったのでWork Permitを提出すれば終わりだったのだが、パートナーはアイルランドですぐ働く予定があるわけではなかったので、その他の理由という項目を選択して、税金のJoint Assessmentのためと書いて申請してみた。
パートナーのほうにも同じようにAppointmentの日程が来たが、婚約の証明(日本で作っていた戸籍の翻訳と翻訳証明)とPassport、私のEmployment Permit、賃貸契約書では足りずに棄却されてしまった。実際には彼女のPPSNの部分以外を入力したJoint Assessment申請用紙が必要だった。
Assessable Spouse Election Form
これに記入して再予約し、Appointmentに行ってやっと取得することができた。
途中まで記入した状態のこのフォームが必要なのも意味があまりわからないし、結局このフォームではなくオンラインでJoint Assessmentは申請できそうなので、PPSNが必要だとアピールするためだけにこのフォームを記入した。
他にも注意書きには、書類は原本のみでコピーされたものはダメと強く書いてあったけど、Employment Permitや会社のオファー、賃貸契約書などはすべてデジタルだったので印刷していったらそれで十分だった。
微妙に厳格で微妙に適当。
IRPの取得
IRP = Irish Residence Permit, 居住権
IRPの取得について、多分これが一番時間がかかる。まず予約がオンラインでできず電話が必要なところから始まり、日程も1ヶ月以上先である。
また必要な書類はPPSN申請のときと同じものに加えてPrivate Insuranceに入っていることを証明できる書類も必要である。
初回のAppointmentまでこれに気づかず、予約時間から2時間弱待った末に、書類不備で追い返され、今は2度目のAppointment待ちである。
私の場合は会社が保険料負担をしてくれるので、会社経由で保険会社と契約した。アイルランドの求人を見ていると、多くの企業はこういった仕組みがあるように見える。
IRPは入国後90日以内までに取得しなければならないが、予約していればオッケーなどルールは緩いっぽい。
まとめ
今やっと生活が落ち着いてきたところだが、移住は本当に大変だった。
特に外国から外国だと、現地での業者も現地クオリティなので、荷物の集荷に来なかったりといろいろあった。
まだまだここに書いていない細かい苦労はたくさんあるが、全部書いていたらキリがないのでこれくらいで。
ここでまとめた情報はあくまで私の体験なので、実際には各種公式の情報などを参照して欲しい。
就職活動の苦労話についてはまた別の機会でまとめようと思う。
また、これから同じような境遇に合う人がいればできる限りでお助けしたいと思うので、XやLinkedInなどで気軽にどうぞ。
ヨーロッパテック界隈の情報が得られる、テック会コミュニティに入ることもおすすめ。
Podcastで他の人の体験を聞くのもよい。
他の国だったりして直接は役に立たない情報でも、同じように苦しみながら頑張っている人の話は元気が出る。
あとはRedditのr/MoveToIrelandも見ていると面白い。「お前のためだ、来るべきではない」という現地の人のリアルな忠告をたくさんみることができる。